笑顔な毎日123

     趣味の充実と生活の工夫について

卑怯者か裏切り者かそれとも・・・

気が付いたら、私は列車の中にいた。

 

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初めは、私1人しかいないのかと思うくらい、乗客はまばらだった。

当然、周りには知っている人は誰もおらず、どこかに行った帰りみたいだが、さてどこに行っていたのかは思い出せない。

 

その列車は各駅停車らしく、一駅毎に停車しては、また次の駅で停車を繰り返していた。

何か不思議な感覚に襲われたのは、ある駅で停車したあと、すぐに出発をしたときだった。


なるほど、もともと乗客は少ない上に、さらに段々と少なくなってきていたが、次々と駅で降りて行くので、それは当然かと思っていたときだった。

 

ある男性が、まだ列車が走っている途中なのに、ドアが開いていて、飛び降りていくのを見てしまった。

 

私は、眼を疑ってしまった。

確かに走っている途中で、その人は飛び降りたのだ。

 

普通なら、周りの人たちは驚いて叫び声を上げたり、運転席まで走って行き列車を止めるようにするだろう。

乗客はまばらとは言っても、さきほどの出来事は誰かは気が付いていただろう。

 

ところが、誰もが、その男性が飛び降りたことを当たり前のように感じて、気にも止めていない様子に見えた。

 

私は、もしかしたら長旅の影響か、疲れて寝ぼけてしまっていて、夢でも見ていたのかと思っていたら、次の駅に停車した。

 

もしも、そんな事故があったのなら、車内放送でもあって、確認作業を行っているためしばらく停車していますみたいな連絡があってしかるべきである。


しかし、そんな放送もなく、何事もなかったように列車はまた出発した。

 

ああ、やっぱり夢だったんだ、良かった、事件じゃなくてと思ってうつらうつらと外の風景を眺めていた。

 

すると、すぐ近くの男性がすくっと立ち上がって、ドアの前まで歩いて行くと、少し立ち止まったかに見えたが、すぐにさきほどと全く同じように飛び降りていったのだ。

 

うわっ、これは現実なんだ!!

と半分眠そうだったのが急に意識がはっきりとして、周りを見渡すと、なんとなく状況が把握できてきた。

 

どうやら、ここに乗車している人たちは、順番に一駅毎に飛び降りをしている順番待ちの人たちなのだ。

 

そういえば、私が座っている場所から遠い人から順番にいなくなっている気がした。

そして、私の前には、もう1人男性がいて、次はその男性の番であるかのように、何となくそわそわしている様子に見えた。

 

私は、その人が飛び降りると、次は私の番だと言うことをやっと理解したのだった。

しかし、何故飛び降りなければならないのかと必死に理由を考えた。

 

私は、何も悪いことをしでかした覚えもなく、自殺なんてする理由も全く思い浮かばないのである。


次の順番だと思われる、目の前の男性も、何か迷っている様子に見えた。

 

と言うことは、その前の人も、そしてまたその前の人も、訳も分からず、順番だから、周りがそうしているからと言うだけで仕方なく飛び降りていったのかも知れない。

 

そう思うと、私は何としてもこの流れを止めなければいけないと強く思うようになった。

 

しかし、列車は平常運転でそのまま進んでいて、とうとう私の前に座っていた男性がゆっくりと立ち上がってしまった。

 

彼もこのまま飛び降りてしまうのか、いや絶対に止めなければいけないとの思いで、声をかけて呼び止めようと思ったが、身体も動かないし、声も上げられない。

 

私は、焦った。

彼が飛び降りるのは、もう運命で決められていることであり、彼がこの列車を去った後は、確実に私の順番が回ってくる。

 

そう思っていると、彼は開いたままのドアから、すっと飛び降りていってしまったのである。

 

あー、止められなかった。

 

何でこんなことになってしまったんだ??

私は、自分の番が回ってきても、立ち上がらなければいいのだと強く言い聞かせるようにした。

 

しかし、飛び降りることをしないと言う事は、これまで実行したきた人たちへの裏切り行為であり、その事を知った世間の人からは非難されるのではないかとも思ってしまっていた。

 

しかしである。
世間的に正しい行いをしなかったから非難されると言うのではなく、むしろ自殺なんかしてはいけないはずなのに、それをしなかったからと言って非難されることなのであろうかと、あれこれ悩んでしまう。

 

こうして考えている事自体がこの世の中では裏切り行為なのではないか、世の中の流れに従うしかないのかと半分諦めようかと言う気分にもなってくる。


しかし、であるけれども!!

やっぱり飛び降りることは阻止しなくてはいけないと言う気持ちの方が強くなっていった。

 

彼がドアの前に立っているほんの数秒の間に、私の心の葛藤で凄く動揺していた。

 

私は、彼はどのような気持ちでいるのかと顔を一瞬覗き込んだとき、彼は私の方をちらっと見たように思えた。

 

が、すぐにゆっくりとドアから出ていってしまったのだった。

しかし、眼があった瞬間に彼も私と同じ考えだったように感じていた。

きっと彼は、抵抗しようと強く思いながら、それを果たせず、飛び降りていくしかなかったのである。

 

私は、絶望感にうちひしがれたような気分になりながら、私は絶対に飛び降りたりはしないぞと思ったと同時に、窓の外から両手が伸びてきて、私の首に巻かれた感触がして首ごと後ろに引っ張られた。


息が出来ないくらいに強く引っ張られた気がした。

彼が死ぬ間際に、私が裏切り行為をしようとしているのを感じて、無理に引きずり出して道連れにしようとしているのだと思った。

 

しかし、引きずり出そうとするほどの力で引っ張っているのではなく、何か強く私に訴えかけようとしているようにも感じた。

 

声が聞こえたのではなく、彼の心が伝わってきたような気がしたのだ。
(今降りろ、いいか、降りて助かるんだ!)と言う声が聞こえた気がしたのだ。

 

その心の声が聞こえた瞬間、列車は駅に止まったままであることに気がついた。

そして、私の首に掴んでいた腕の力が緩んだように感じたのだ。

 

私は、立ち上がって、すぐ側のドアから走って停車駅のホームに降りたった。


さっきまで私の首に手を巻いていた彼のもとに駆け寄り、眼を合わせ、お互いにうなづき合った。

 

彼も必死の様相であった。
私と彼は無言でその場を逃げるようにして列車を離れて走っている。

 

ホームから走り去りながらであるが、さきほど飛び降りた男性の姿が少し離れた線路脇に見えた。
そして、彼は横たわっているように見えたが、手足をばたつかせていた。

 

飛び降りてもう亡くなってしまったかに思えた男性も怪我はしているかも知れないが、確かに生きていた。

 

私は、走りながら考えた。

裏切り行為をしたので、世間に顔向けできない。
どこか知らない場所に逃れてひっそりと暮らさなければいけないのかも知れないと思っていたが、さっきの男性も死なずに済んだみたいなので、もしかすると、それまでに飛び降りた人たちも助かっているのかも知れない。

 

と言うことは、『お前だけ逃げやがって、助かりやがって』と言うような非難はある程度はあるとしても、、、

 

これまで目の前で起こっていた事の方がおかしいことだと強く訴えて、世間の人たちに理解を求めていくことの方が大事なのではないかと思いながら走っていた。

 

 

眼が覚めてから思った事は、確実に前日に見たテレビの影響であることが分かった。

 

ひとつは、特攻隊の話。

ウクライナ出身の人がどうしても知覧に行きたいと言う夢を叶える話。


私も数年前に、知覧に行ったことがある。特攻隊の人たちの残された遺書を途中から涙で読むことができなくなってしまった覚えがある。


また、神田さんの亡くなったと言う訃報、この二つが確実に影響した夢だったに違いない。

 

これらのテレビで見聞きした事に対する論評はさけるが、、、


私は、夢の中とはいえ、理由もなく死を選ぶのではなく、生きる道を選ぶことができたし、志を同じくする見ず知らずの仲間にも出会えた。

これは、もしかすると良い夢だったのではないかと思っている。

 

ただ、この夢を見たことに対して、

特攻隊で亡くなった人たちは、お国のために尊い犠牲となったのであって、彼らの御陰で今の日本があるのだと言う立ち場であることだは付け足しておかなければならない。